教育現場における生徒のスマホ利用実態の把握とアセスメント:具体的な手法と見立て
はじめに:なぜ生徒のスマホ利用実態の把握が必要か
現代の中学校において、スマートフォンは生徒たちの生活に深く浸透しています。情報収集、コミュニケーション、学習、娯楽など多岐にわたる用途で活用される一方で、その利用に伴うリスク、特に依存傾向や不適切な利用が懸念されています。学校現場で生徒を適切に指導し、健全な成長を支援するためには、生徒一人ひとりのスマホ利用実態を正確に把握し、その状況を多角的にアセスメント(見立て)することが極めて重要となります。
実態把握は、表面的な利用時間だけでなく、利用内容、目的、頻度、利用時の生徒の様子などを包括的に理解するための第一歩です。これにより、潜在的なリスクの早期発見や、生徒個々の状況に応じたパーソナルな支援計画の立案が可能になります。本稿では、教育現場、特に中学校において、生徒のスマホ利用実態を把握し、適切にアセスメントするための具体的な手法とポイントについて解説します。
生徒のスマホ利用実態把握のための具体的な手法
生徒のスマホ利用実態を把握するためには、様々な角度からの情報収集が必要です。単一の手法に頼るのではなく、複数の手法を組み合わせることで、より立体的な生徒像が見えてきます。
1. 生徒からの情報収集
生徒自身からの情報は、自己認識に基づくものであるため、その背景にある生徒の考えや感情を理解する上で重要です。
- アンケート調査:
- 匿名での実施が望ましい場合があります。
- 利用時間(平日・休日)、利用内容(SNS、ゲーム、動画視聴、学習など)、利用する場面(通学中、休み時間、就寝前など)、利用時の気持ち(楽しい、落ち着く、やめられないなど)、利用に伴うトラブル経験などを具体的に問う設問を含めます。
- 例:「1日に平均何時間くらいスマホを使いますか(学習目的以外)」、「スマホを使っていて、やめようと思ってもやめられなくなった経験はありますか」といった質問が考えられます。
- 振り返りシート・日誌:
- 特定の期間、生徒に自身のスマホ利用について記録・記述してもらいます。
- 具体的な活動内容、その時の感情、他の活動(学習、睡眠など)への影響などを振り返る形式にすることで、生徒のメタ認知を促す効果も期待できます。
- 個別面談・生徒との対話:
- 日頃からの信頼関係構築が前提となります。
- 型通りの質問だけでなく、生徒の興味関心や悩み事を聞く中で、自然な流れでスマホ利用に関する話題に触れます。
- 「どんなアプリを使っているの」「最近面白い動画はあった」など、共感的な姿勢で会話を始めることが有効です。
2. 保護者からの情報収集
家庭でのスマホ利用実態は、保護者からの情報が最も正確です。学校と家庭が連携することで、より包括的な状況把握が可能になります。
- 保護者向けアンケート:
- 家庭での利用ルール、利用時間、保護者から見て気になる利用状況、利用に伴う変化(睡眠、食事、家族との交流など)、保護者の関わり方などを尋ねます。
- 例:「お子様が家庭でスマホを利用する際のルールはありますか」、「スマホを利用している時のお子様の様子で気になる点はありますか」といった質問が考えられます。
- 保護者面談・懇談会:
- 定期的な面談や懇談会の機会を利用し、家庭での様子について情報交換を行います。
- 学校での様子を伝えるとともに、保護者からの懸念や相談に耳を傾けます。
- 連絡帳・電話等での個別のやりとり:
- 生徒の様子に変化が見られた際などに、保護者と速やかに情報共有を図ります。
3. 生徒の観察と校内での情報共有
教師が生徒と接する日常的な場面での観察も重要な情報源です。
- 学校生活での観察:
- 授業中の集中力、休み時間の過ごし方、友人とのコミュニケーション、気分や態度の変化などを観察します。
- 特定の生徒だけでなく、学級全体、学年全体の傾向を把握することも重要です。
- 同僚教師との情報共有:
- 複数の教師が異なる場面で観察した情報を共有することで、生徒の全体像をより正確に把握できます。
- 学年会や生徒指導に関する会議などで定期的に情報交換する機会を設けることが有効です。
収集した情報のアセスメント(見立て)のポイント
収集した情報は、単に集めるだけでなく、生徒の状況を理解し、適切な支援につなげるためにアセスメントを行う必要があります。
1. 多角的な視点からの評価
- 量だけでなく質に注目: 利用時間だけでなく、どのようなコンテンツに触れているか、誰とどのようなやり取りをしているか、何のために利用しているかといった「質」の視点が重要です。学習に活用しているのか、単なる時間消費なのか、交流の内容は健全かなどを評価します。
- 背景要因の理解: スマホ利用が増加したり、問題が生じたりしている背景に、生徒の心理状態(不安、孤独、ストレス)、家庭環境、友人関係、学業不振、居場所のなさなどが影響している場合があります。これらの背景要因を推測し、理解しようと努めることが不可欠です。
- 発達段階への配慮: 中学生は心身ともに大きく変化する時期です。この時期特有の承認欲求や友人関係への関心、自己肯定感の揺らぎなどがスマホ利用に影響を与えることを理解しておく必要があります。
2. 依存傾向やリスク行動を示す兆候の見立て
以下のような兆候が見られる場合は、注意深い観察とアセスメントが必要です。
- 利用時間の増加とコントロール困難: 計画よりも長時間利用してしまう、やめようと思ってもやめられないといった様子が見られる。
- 優先順位の変化: 学業、部活動、睡眠、家族との時間などよりもスマホ利用を優先するようになる。
- 禁断症状: スマホが使えないと落ち着かない、イライラする、不安になるといった様子が見られる。
- 身体的・精神的変化: 睡眠不足、目の疲れ、肩こり、頭痛、集中力の低下、情緒不安定、イライラ、無気力といった症状が見られる。
- 人間関係の変化: リアルな交流よりもオンラインでの交流を優先する、家族との会話が減る、友人とオンラインでしか関わらないなど。
- 学業への影響: 宿題や課題に手がつかない、授業中の態度が悪化する、成績が低下するといった変化が見られる。
- 隠れて利用: 保護者や教師に隠れてスマホを利用する。
- 利用に伴う問題行動: 高額課金、不適切なSNS投稿、ネットいじめへの関与、出会い系サイト利用、個人情報漏洩など。
これらの兆候は単独で判断するのではなく、複数見られるか、期間や状況を考慮して総合的に判断します。
3. アセスメントにおける留意点
- 決めつけや非難をしない: 生徒や保護者を頭ごなしに決めつけたり、非難したりする態度は信頼関係を損ない、正確な情報収集を妨げます。
- 秘密保持への配慮: 収集した情報の取り扱いには十分注意し、プライバシー保護を徹底します。
- 学校全体での共通理解: アセスメントの視点や基準について、学校全体で共通理解を持つことが望ましいです。
- 専門家との連携: 判断に迷う場合や、深刻な依存が疑われる場合は、スクールカウンセラーや精神科医、地域の相談機関などの専門家と連携します。
アセスメント結果の活用と次のステップ
アセスメントの結果は、生徒への具体的な支援や学校全体の取り組みに活かされます。
- 個別の支援計画: アセスメントに基づいて、生徒一人ひとりの状況に応じた声かけ、指導、目標設定などを計画します。
- 保護者との共有と協力: アセスメント結果の一部を保護者と共有し、家庭での支援やルール作りについて協力をお願いします。
- 学校全体の予防策: 収集した生徒全体の傾向を分析し、デジタルリテラシー教育の改善、時間管理スキルの育成、学校での居場所づくりといった学校全体の予防策にフィードバックします。
- 専門機関への紹介: 重度な依存や深刻な問題を抱えている場合は、適切な専門機関への相談や受診を検討・推奨します。
まとめ
教育現場における生徒のスマホ利用実態の把握とアセスメントは、生徒の健全な成長を支援し、スマホ利用に伴うリスクを軽減するための基盤となる重要なプロセスです。アンケート、面談、観察、保護者との連携など多角的な手法を用いて情報を収集し、単なる利用時間にとらわれず、利用内容、背景、兆候などを総合的に見立てることが求められます。このアセスメント結果を個別の支援や学校全体の取り組みに活かすことで、生徒がテクノロジーと適切に関わりながら、豊かな学校生活を送れるよう導くことが可能となります。実態把握とアセスメントは継続的に行い、生徒の変化に応じて支援を柔軟に見直していく視点を持つことが重要です。