スマホ依存とオンラインゲーム・SNS依存:教育現場での生徒の見立てと多角的理解
変化する子どものデジタル利用環境と依存問題
近年、スマートフォンは子どもたちの生活に不可欠なツールとなっています。コミュニケーション、情報収集、学習、エンターテイメントなど、その用途は多岐にわたります。しかし、その利便性の裏側で、過度な利用による様々な問題も顕在化しています。特に「スマホ依存」は広く認識されていますが、子どもたちのデジタル利用に伴う問題は、単にスマホの利用時間が多いというだけに留まらない複雑な様相を呈しています。
子どもたちがスマホを介して没頭する対象は、オンラインゲーム、SNS、動画視聴、ウェブサーフィン、そして課金行為など多様です。これらの個別のデジタル活動に対する過度な没頭は、それぞれが独立した依存症的な問題を引き起こす可能性があります。教育現場において生徒の抱える問題を適切に見立て、支援するためには、スマホ依存という包括的な概念だけでなく、その根底にある特定のデジタル行動への依存形態についても理解を深めることが重要です。
本記事では、スマホ依存を broader context(より広い文脈)で捉え直し、オンラインゲーム依存やSNS依存といった個別のデジタル依存症との関連性や違い、それぞれの特徴について解説します。そして、教育現場で生徒の状況を多角的に見立てるための視点と、適切な支援・指導に向けた示唆を提供します。
「スマホ依存」とは何か:包括的理解
一般的に「スマホ依存」という言葉は、スマートフォンへの過度な没頭によって、日常生活や健康、学業、人間関係などに悪影響が生じている状態を指すことが多いです。これは医学的な診断名ではありませんが、特定の行動への依存症に見られるような、以下の特徴を伴う場合に問題視されます。
- コントロールの喪失: 利用時間や頻度を自分でコントロールできない。
- 利用の中止・制限による苦痛: 利用を減らそうとすると、イライラしたり落ち着かなくなったりする。
- 他の活動への関心の低下: 以前楽しんでいた活動(学習、運動、友人との交流など)への関心が薄れる。
- 継続的な利用: 問題が生じているにも関わらず、利用を止められない。
- 嘘や隠し事: 利用時間や内容について、家族や周囲に嘘をついたり隠したりする。
- 悪影響: 学業成績の低下、睡眠不足、体調不良、家族との関係悪化などが生じる。
しかし、生徒がスマホに没頭している場合、問題の本質はスマホという「デバイス」そのものにあるのではなく、スマホを介して行っている特定の「活動」にあることが少なくありません。例えば、長時間スマホを使っている生徒がいたとしても、それが学習のための利用なのか、特定のゲームへの没頭なのか、あるいはSNSでの交流なのかによって、問題の性質や必要な対応は異なります。
オンラインゲーム依存・SNS依存・課金依存の特徴
スマホ依存の背景にある主要なデジタル依存症には、以下のようなものがあります。
オンラインゲーム依存(ゲーム障害)
世界保健機関(WHO)によって国際疾病分類(ICD-11)に「ゲーム障害(Gaming disorder)」として登録された医学的な概念です。デジタルゲームまたはビデオゲームへの持続的または反復的な行動パターンで、以下の特徴によって診断されます。
- ゲームをプレイする時間や頻度、期間、状況などを制御できない。
- ゲームを最優先するようになり、生活上の他の関心事や日常的な活動よりも優先順位が高くなる。
- 問題が生じているにもかかわらず、ゲームを継続、またはエスカレートさせる。
これらの行動パターンが通常12ヶ月以上続き、個人的、家族的、社会的、教育的、職業的、その他の重要な機能分野で著しい障害を引き起こしている場合に診断されます。子どもにおいては、学業成績の著しい低下、不登校、昼夜逆転、家族内での激しい対立といった形で問題が顕在化しやすい傾向があります。
SNS依存
SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)への過度な没頭による問題です。医学的な診断名ではありませんが、SNS利用に対するコントロールの喪失や、SNSから離れることへの不安(FOMO: Fear Of Missing Out - 取り残されることへの恐れ)、投稿への「いいね」やコメントといった承認を過度に求める行動などが特徴として挙げられます。
子どもや若者にとって、SNSは友人とのコミュニケーションや自己表現の重要な場です。しかし、他者の投稿と比較して自己肯定感が低下したり、誹謗中傷に巻き込まれたり、常にオンラインで繋がっていないと不安を感じたりするなど、精神的な健康や人間関係に悪影響を及ぼすことがあります。特に思春期は承認欲求が高まる時期であり、SNSでの評価が生徒の自己肯定感に大きく影響することがあります。
課金依存
オンラインゲームやアプリ、デジタルコンテンツなどへの課金行為が、経済的な問題や他の依存症と関連して深刻化する問題です。これも医学的な診断名ではありませんが、ギャンブル依存症との類似性が指摘されています。
ゲーム内アイテムやガチャへの衝動的な課金、クレジットカード情報の無断使用、親の財布からの盗みなど、金銭に関わる問題行動を伴う場合があります。子ども自身にお金を稼ぐ手段が少ないため、保護者の経済状況を圧迫したり、家族間の深刻なトラブルに発展したりするリスクが高いです。課金行為がエスカレートする背景には、ゲーム内での優位性や達成感を求める心理、あるいは単なる衝動制御の困難さなどがあります。
スマホを介した様々な依存の関連性と共通メカニズム
現代において、これらの様々なデジタル依存症は、多くの場合スマートフォンという単一のデバイス上で複合的に発生します。生徒はスマホを使ってゲームをし、SNSで繋がり、動画を見て、オンラインで買い物をします。つまり、スマホは様々なデジタルコンテンツやサービスへの「入り口」となっているのです。
複数のデジタル活動に過度に没頭している生徒も少なくありません。例えば、ゲームで知り合った友人とSNSで繋がり、その友人との関係を維持するためにゲームを続け、ゲーム内で優位に立つために課金をする、といった形で、ゲーム依存、SNS依存、課金依存が相互に関連し、問題を複雑化させる可能性があります。
これらのデジタル依存に共通する心理的・行動的メカニズムとして、脳の報酬系への作用が挙げられます。ゲームでの成功、SNSでの「いいね」、新しい情報の取得といったデジタル上の活動は、脳内にドーパミンという神経伝達物質を放出させ、快感や報酬を感じさせます。この報酬が繰り返されることで、その活動への欲求が高まり、依存が形成されやすくなります。また、現実世界でのストレスや不満からの逃避として、デジタル世界に没頭するという側面も共通しています。
教育現場での生徒の見立て:多角的な視点
生徒のスマホ利用に関する問題に直面した際、それが単なる長時間利用なのか、あるいは特定のデジタル依存症の兆候なのかを見極めるには、多角的な視点からの見立てが必要です。以下の点を意識して生徒の状況を観察し、情報を収集することが有効です。
- 利用時間だけでなく「内容」と「目的」に注目する: 生徒がスマホで何をしているのか(ゲーム、SNS、動画、学習など)、なぜその活動に時間を費やしているのか(楽しいから、友達と繋がるため、現実逃避、学習のためなど)を理解することが重要です。
- 利用の「質」と「変化」を見る: 受動的な動画視聴が多いのか、能動的な創作活動や学習に利用しているのか。以前と比べて、特定のアプリやゲームへの没頭度が顕著に増したか。
- 他の生活領域への影響を確認する: 学業成績、睡眠時間、食欲、運動、友人とのリアルな交流、家族との会話など、デジタル利用が他の生活領域にどのような影響を与えているかを確認します。以前は興味を持っていた活動から離れていないか。
- 感情面や行動の変化: イライラしやすくなったか、落ち着きがないか、嘘をつくようになったか、引きこもりがちになったか、不安や抑うつ傾向が見られるかなど、心理面や行動面の変化を観察します。
- 金銭に関する問題: 保護者から無断課金や金銭の持ち出しについて相談がないか、生徒自身がお金について不自然な言動をしていないか。
生徒への聞き取りを行う際は、頭ごなしに非難するのではなく、生徒の状況を理解しようとする姿勢を示すことが信頼関係構築の第一歩です。利用時間だけでなく、「どんなゲームが好きか」「SNSで友達とどんな話をしているか」など、興味を持って尋ねることで、生徒が何に価値を感じてデジタルを利用しているのかが見えてくることがあります。ただし、センシティブな情報に関わる可能性があるため、プライバシーへの配慮と、必要に応じて専門家(スクールカウンセラーなど)との連携を図ることが不可欠です。
生徒への指導・支援のポイントと予防策
特定のデジタル依存症が強く疑われる場合や、複数の依存形態が複合している可能性がある場合、画一的な対応では効果が期待できないことがあります。
- 問題の特定と理解: 生徒がどのようなデジタル活動に、どのような目的や背景で没頭しているのかを生徒自身や保護者と共に理解することを目指します。生徒自身が問題の存在や影響に気づくように促すプロセスが重要です。
- 専門機関との連携: ゲーム障害など、医学的な診断や専門的な治療・支援が必要な場合は、保護者と連携し、医療機関や依存症専門の相談機関への相談を強く推奨します。学校だけで抱え込まず、外部の専門リソースを活用することが非常に重要です。
- 個別に応じた対応: 生徒の状況(依存の種類、程度、背景、併存する問題など)に応じて、目標設定や具体的なアプローチ方法を検討します。例えば、ゲーム依存の場合はゲーム以外の代替活動を提案したり、SNS依存の場合はリアルな人間関係の重要性を伝えたりするなど、焦点を当てるべき点が異なります。
- 予防的アプローチの強化: 特定の依存に陥るリスクを下げるために、全生徒を対象とした予防教育を継続的に行うことが重要です。デジタルリテラシー教育の一環として、ゲームやSNSの適切な利用方法、課金の仕組みに潜むリスク、オンラインでの人間関係の構築、メンタルヘルスケアの重要性などについて、生徒が主体的に考え、学ぶ機会を提供します。
- 学校全体での連携: 養護教諭、スクールカウンセラー、他の教員、管理職など、学校全体で生徒の状況を共有し、連携して対応する体制を構築します。
保護者との連携強化
生徒のデジタル利用問題への対応には、保護者との連携が不可欠です。学校から保護者会や個別の面談などを通じて、様々なデジタル依存の存在や兆候について情報を提供し、家庭での見守りや適切な声かけの重要性を伝えることが求められます。
保護者自身も、子どものスマホ利用の「内容」や「目的」に目を向け、一方的な利用制限だけでなく、子どもが何に興味を持ち、なぜデジタルに没頭するのかを理解しようと努める姿勢が大切であることを伝えます。また、家庭内でデジタル利用に関するルールを話し合って作成することや、保護者自身のデジタル利用習慣を見直すことの重要性についても啓発します。
特定の依存が疑われる場合は、保護者にその兆候を具体的に伝え、専門機関への相談を勧める際の丁寧なサポートが必要です。保護者自身が子どもへの対応に疲弊している場合もあるため、保護者への心理的なサポートも視野に入れることが望ましいです。
まとめ
子どもたちのデジタル利用は多様化し、それに伴う問題も複雑化しています。単にスマホの長時間利用というだけでなく、オンラインゲーム依存、SNS依存、課金依存といった個別のデジタル活動への過度な没頭が、生徒の健全な成長に様々な影響を及ぼす可能性があります。
教育現場においては、これらの多様なデジタル依存の存在を理解し、生徒の状況を多角的な視点で見立てることが、適切な支援への第一歩となります。生徒が何に没頭しているのか、その背景に何があるのかを丁寧に探り、必要に応じて専門機関とも連携しながら、生徒一人ひとりに応じたきめ細やかな指導・支援を行うことが求められます。また、予防的な観点から、生徒のデジタルリテラシーを高め、健全なデジタル利用習慣を育むための教育を継続していくことが、未来を見据えた重要な取り組みとなります。